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《師の影》第二十七回

 静寂の中に、左馬介一人がいた。

「早く行かぬと、昼の握り飯がなくなるぞ」

 その時、どこからともなく響く幻妙斎の声がした。辺りを見回すが、言葉の後は笑い声が聞こえるだけで、師の姿は左馬介には見えない。

「心で見よ。さすれば、自ずと我が姿は見えようぞ…」

 只者ではないことは左馬介にも分かっていた。しかもそれは、入門した日から肌で感じている。しかし、こうして何度も現実離れした夢のような幻に()うと、やはり幻妙斎の神懸り的な異様さを左馬介は信じざるを得なくなっていた。そしてまた今日も、その想いが益々、強まっていた。左馬介は、聞こえた師の声に従って、静かに両眼を閉じた。だが、今の左馬介には、何も見えては来なかった。それどころか、師範代の蟹谷が井上に任せて幻妙斎の所へ山上の一件を報告に行った筈だ…と、妙な雑念が湧く。更には、そうであるなら、幻妙斎が果して山上の出奔を知っているのか…が、気になる。左馬介に声を響かせた幻妙斎には、少しの動揺も感じられなかった。やはり、このお方は超人なのだ…と、左馬介には思えた。

 山上が葛西の千鳥屋に頼まれ、やくざ相手の用心棒になっているという風の噂が道場に(もたら)されたのは、出奔の数日後であった。

「先生は、『去りたき者は去ればよい…』と、云われたぞ」

 と、次の日の朝餉の席で、皆を前にして蟹谷が話した様子から推し量れば、幻妙斎は鷹揚な人柄であるように左馬介には思えた。

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