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《師の影》第十九回

「先生が(じか)に、ですか!? 左馬介さんは恵まれておいでです。と、いうか、運が(すこぶ)るいい。私など、入門して一年になりますが、まだ一度として口を利いて貰えたことなどありません。いえ、私ばかりではなく、長沼さん、塚田さんなども、入門なさって数年になりますが、そんなことは未だ無いと云っておられました。ですから早い話、皆から見れば、先生は神の如き存在なんですよ」

 そうなのか…と、左馬介は認識を新たにした。では、滅多と門人に声を掛けたことの無い幻妙斎が、入門して間もない未熟な自分に何故、声を掛けたのだろう…。左馬介を、また大きな一つの謎が包み込もうとしていた。季節は疾うに真夏で、昼間の暑気の残り香は、一馬と左馬介が片付けをしている厨房の辺りにも忍び寄ってきた。風さえ少しあれば…と、糸瓜(へちま)で茶碗や皿を洗いながら左馬介は思った。

 一馬は裏木戸の近くにある井戸の釣瓶(つるべ)で水を汲んでいる。幾らかは疲れそうだが、水汲みの方が凌ぎよさそうに思えて恨めしく、左馬介は(ひたい)の汗を片袖で荒っぽく拭った。夏の到来が余程、嬉しいのか、熊蝉らしいのが鳴いているようだ。昼間ほどではないにしろ、まだ充分に暗くなり切っていない所為(せい)なのだろう。左馬介の両耳に、じんわりと届いた。

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