表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/612

《師の影》第十七回

「獅子童子は(わし)が飼っておる雄猫じゃが、飼い始めて十五、六年にもなろうかのう…。すっかり老いぼれおった。儂と同じ老人じゃわ…」と、幻妙斎は豪快に笑い飛ばした。そして、「じゃがのう…。あの猫の寝姿には、剣の極意と相通じるものがあるんじゃ。そなたにも、(いず)れ分かる時が来よう…」と云い置くと、蝋燭の炎が風で吹き消されるかのように、フッ! と姿を消した。幻妙斎のこうした神がかり的な消え様には左馬介も既に慣れつつあった。しかし、その出現と去り方は全く一方的で、変幻自在の幻妙斎へ近づける(すべ)は、左馬介には未だ無かった。

 半月ばかりが瞬く間に流れた。だが、左馬介に命じられる稽古といえば、相も変らぬ蟹谷による歩き稽古のみであった。それも、必ずあるというものではない。左馬介は、いつになれば打込みや掛り稽古が出来るのだ…と、徐々に不安が募っていた。そして、この日の稽古も終ろうとしていた。待つ甲斐もなく蟹谷の声は掛からず、左馬介は座を暖めていた。それでも、十日程前に幻妙斎が放った謎の言葉を想い出しつつ、何処からともなく現れる猫の獅子童子から何かを得ようと、毛並みを上げ下げして寝入る蕪顔(かぶらがお)の猫を見続けていた。

「どうじゃな…何か、分かったかの? ああ…そうじゃった。そのように、いとも容易(たやす)く分かれば、稽古する必要などないのう…」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ