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《旅立ち》第七回

 暫し立ち止まり、その自然が織り成す筆致を茫然と眺める左馬介である。

「おっと!! ごめんよっ!」

 その時である。前方から矢のような影が流れ、過ぎ去った。声がしたとき、左馬介は、その声に背を向けた格好だったから、正確に表現すれば、その者と擦れ違ったことになる。それまで山麓に向けていた目線を落として振り返ると、その声の主は、既に十間(じゅっけん)ばかり遠ざかっていた。見るからに飛脚屋そのものの風体の男であった。()りでは無くてよかった…と安堵して我に帰ると、左馬介は身を転じ、ふたたび葛西への道を歩み始めた。道中、半ばで松林の林道を抜け、葛西へは、左馬介の予想通り(ひつじ)の下刻には到着することが出来た。その途中、左馬介は美坂(みさか)川に架かる小諸(こもろ)橋の橋脚の下で握り飯を頬張り、大よそ半時、腰を下ろして(くつろ)いだ。その昼近くは、梅雨入り前の蒸し返るような暑気が左馬介を襲っていた。朝、出立した頃は何とも爽快な天候で気分が良かったのだが、やはり、そう上手くはいかぬ…と、少年っぽく左馬介は自嘲した。水の流れが、萎みがちな心を癒したし、何よりも、足の早くなった握り飯に臭いがなかったことに、ひとまず安心した左馬介であった。

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