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《師の影》第七回

 少し(いら)つく左馬介に、

「秋月さん。少し焚き付けを入れ過ぎです」

 と、火吹き竹を赤ら顔で吹く左馬介に、横から一馬が忠言した。昨日とは逆に、一馬は動かず傍らから左馬介の所作を観ているのだ。左馬介は詰め過ぎた焚き付けを幾らか出した。すると、それまでは嫌がって白煙を吐いていた(かまど)口から勢いよく、ボッ! っと、橙色の炎が吹き出た。思わず、左馬介は顔を引いた。火吹き竹などは、いらぬ燃えようである。ほんの些細な違いで、こうなるのだ…と、左馬介は思った。剣の捌きにも通じるものがある気がした。

 ふと見ると、一馬は、もう傍らにはいなかった。少し離れた所に置いてある七輪で魚を焼いている。ごく稀には一品つくという堀川道場の馳走の日であった。鯖の切り身からは、勢いよく脂の泡沫が吹き出て、赤く熾った炭火の中へ、ポタッ、ポタリ…と、落ちていく。その度に、ジュッ! …という濁った音と、やや蒼味を帯びた薄煙、それに焼き魚特有の芳しい匂いを辺りに放つ。それを手際よく裏返して、焼ければ、これも慣れた手つきで小皿へと箸で添えていく一馬である。見蕩れている訳にもいかないから、左馬介も少し湯気が立ち昇り始めた鍋に削り鰹を入れる。一端、燃え出した竈は、もう消えることがない。薪は火勢を大そう強めて、赤々と燃え続けていた。

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