表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/612

《師の影》第六回

 正面上座に確かに座っていた筈の幻妙斎の姿は跡形もなく、忽然と消えていた。左馬介は手で両眼を幾度も擦った。門弟達は別に驚くでもなく稽古を続けている。向き合った一組づつが、交互に形を示し合う。それを受ける側の者は、示された形に対して受けの形で返して示す。この所作を静かに続けているだけで、幻妙斎がいつ現れ、またいつ消えたのか…などという些細なことには無頓着なように左馬介には感じられた。激しい打ち込み稽古や掛り稽古とは違う、妙な寂寞(せきばく)感がなくもない。左馬介も道場の稽古は幾度も観たことがあったが、こうした稽古に出くわしたのは初めての経験であった。

 夕餉の準備が始まっていた。一馬に従って、昨日、観ていた賄いの要領を想い出し、理解できているところは率先し、分からぬところは訊ねる左馬介である。一昨日までは新入りだった一馬と二人でやっていた長谷川修理だが、昨日からは抜けている。その長谷川の立場に今日は一馬が入り、左馬介は見習いとして準備をしているのだ。薪を(かまど)へ数本、放り込み、焚き付け用の杉の枯葉を入れる。火打石を打って種火を付け、中へ入れると白煙が出始める。この所作は、昨日、一馬がやっていたことと同じ仕草なのだが、観ていた時と、する時とでは明らかに要領が違い、一馬のようには上手く出来ない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ