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《惜別》第三十一回

 後から分かったのだが、蓑屋の主は太兵衛、奉公人の店娘はお末と云った。太兵衛は、軒下の床几に座る左馬介へ(おもむろ)に近づいた。

「これはこれは…。いつぞやの…」

「あっ! ご亭主。その節は丁寧にお教えを戴き、誠に有難うございました。お蔭様で樋口さんに目通り出来ました。そのお礼に…」

「態々(わざわざ)、御丁重に…。そのようなことを、お気遣いされなくても結構でございますのに」

 太兵衛は腰を低くして、ペコリペコリと幾度もお辞儀をした。これでは、どちらが礼を云っているのか、遠目では誰にも分からない。

「ここでお世話になったのは、実のところ、これで二度目なのですよ。一度目は、雨の日に傘をお借り致しました…」

「ああ…、そのようなことが有ったようでございますな。お末から聞き及んでおります」

 あの娘…名をお末というのか…と、左馬介は思った。この時点で左馬介は、すっかり逆上(のぼ)せて、お末に惚の字だった。だが、武士の面目というものがある。それに、今は堀川の門弟として修業中の身なのだ。気があるなどとは噯気(おくび)にも出せないし、また想いの丈を打ち明けることも許されぬ…と、左馬介は心を引き締めるのだった。

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