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《惜別》第三十回

ところがその時、以前、番傘を貸してくれた娘が店前に掛けられた暖簾を外しに内より顔を見せた。ひょんなことで会えた訳だが、左馬介はどぎまぎして、幾らか平静を欠いた。

「すみません…。もう暖簾を外します…」

 娘は左馬介を客だと思い、断りを入れた。

「いや、そうではないのです。…ご亭主は、おられるでしょうか?」

「はいっ! 旦那様なら今、奥に…。あのう、何か?」

「いえ…これといった用向きではないのですが、お礼の御挨拶に罷り越した次第です。その旨を、お伝え願えれば…」

「分かりました。暫く、お掛けになってお待ちくださいまし…」

 娘は座布団を置き直し、赤敷布の床几を左馬介に勧めると、背を向けて足早やに奥へと消えた。どぎまぎしていた左馬介の心も、娘が姿を消したことで幾らか平静を取り戻しつつあった。ほんの束の間だが、空白の時が流れていた。というのも、左馬介の思考は娘によって完全に停まっていたからである。気づけば身体は操られたかのように、娘が勧めた床几の座布団へ腰を下ろしている。これは、幻妙斎の云われるままに動いて操り木偶(でく)になっていた自分とは、まるで違う…と、刹那、左馬介は思った。その時、店の(あるじ)が奥より暖簾を上げて現れた。

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