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《惜別》第二十五回
それに、代官の次男坊が、まさかそこまで金銭に困っているとも思えなかった。
蓑屋の主、与五郎は気立てのいい男と見え、左馬介が訪うと、快く奥へと通し、茶と菓子をふるまってくれた。それに、左馬介が訊ねることにも気持よく答えた。
「いやあ、そこ迄は流石に分からないんでございますけれども…。恐らく、何かお考えあってのことでございましょう。何かを、この辺りで、お探しの故か、或いは訪ね人をお待ちになられているのか…、そこら辺りのところは、ちと量りかねますが…」
回り諄く云う与五郎なのだが、要は分からんのだ…と、左馬介は察した。
「一時、如何ほどお支払いなのですか?」
「一度、七、八十文でお願いを致しております…」
「その時々で違う、ということですか?」
「いいええ、樋口様の御都合で、お越しが遅れます日と、上手い具合に丸一時、お越し願える日との違いで…」
ああ、そういうことか…と、左馬介は得心した。
「それで、今日も酉の刻にはお見えになるでしょうか? なにぶん、こちらからは連絡出来ず、漸く権十さんから得た話でして…」




