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《惜別》第十六回
「別に難しくはないと思いますが…」
遠慮気味に鴨下が云う。
「なに? 鴨葱に、いい算段があると申すか?」
「はい…。算段と云えるかどうかは別としましても、足取りを追えば樋口さんには必ず会えます」
「ははは…。そんなことだろうと思おた。それは、必ず会えるという手立てでは、なかろうが」
「はあ、それはまあ…。しかし、権十にでも頼めば、相応の知らせは得られるのでは…」
「おお! それはいいぞ。権十なあ…。奴ならば小走りが利くから、探りも容易かろうしなあ。…鴨葱も最近は味がよくなったなあ」
そう云って長谷川は大笑いした。
「ますます美味くなりますよ」
鴨下は鷹揚に返し、逆手に出た。思わず二人は顔を見合わせて笑い合う。左馬介だけが二人の話に取り残された形である。
「権十に私から頼んでおきます」
左馬介が漸く二人に割って入り、そう告げた。二人は真顔に戻り、左馬介の顔を見た。




