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《惜別》第十五回
「よし! 飯にしよう」
長谷川は大皿を持って先に堂所へと入っていった。鴨下は茶の準備をしている。長谷川の後を追う形で、左馬介も堂所へと向かった。
一人頭、四ヶはある握り飯も、香ばしく温かいこともあり、瞬く間になくなった。後の茶を啜りながら、
「で、先ほどの続きだが、先生のご様子はどうなのだ?」
と、長谷川が突っ掛けた。
「ええ…。取り分けてお悪いという程のことではないのです」
「なんだ、そうか…。まあ、それならば何も申すこともないのだが…」
「ただ、私にも、しかとは分からぬのですよ。飽く迄、私が感じた迄のこと、とお思い下さい」
「ん? いや、なに…。万一の折りは、樋口さんが駆け込むだろうしな…」
「ええ…。別棟のお客人の方々も騒ぎ立てるでしょうから。あっ! そのことなのですが、樋口さんに私からお会いする、何ぞいい手立てはないものでしょうか?」
「こちらからか…。影番は神出鬼没だからなあ。まあ、先生の比ではないのだが…。難しい注文だな」
長谷川は両の腕を組んだ。




