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《惜別》第十回

天井板の節目に樋口の笑顔がふと浮かび、何とも歯痒い左馬介であった。次に樋口が道場へ寄った折りは、恐らく幻妙斎の言伝を左馬介に伝える為による時だろうから、それでは遅かりし由良介だからな…と、左馬介は思った。何が何でも、それ迄には一度、樋口に会わねば…とも思えた。何故、遅かりし由良介…の一節が左馬介の胸中に浮かんだのかと云えば、それは父の清志郎が大層、歌舞いていたからである。扶持米が年、二十八両相当ばかりの秋月家で、父が僅かずつ蓄えた金で芝居見物に度々、出かけたのだ。その出しものの中の忠臣蔵の一節を、よく口走っていたので、いつの間にか左馬介の心の奥底に染みついていたと、まあ、そういうことである。それは(さて)置き、樋口にこちらから会える何らかのいい手立てはないものだろうか…と、ふたたび左馬介は巡り始めた。葛西代官所の樋口半太夫に頼んだとしても、無理な話に思える。いくら親子だとはいえ、代官職の半太夫が子で影番の静山を呼び戻せるとも思えなかった。

 いつの間に眠ってしまったのだろうか…。身体の冷えで目覚めれば、もう既に昼前になっているようだった。左馬介は急激に空腹感に(さいな)まれた。昼餉は握り飯なのだが、冬場の今は炭火で焼いて食べるのが、ここ最近の通例となっている。小人数の門弟になったこともあった。

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