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《惜別》第二回

 流石は師だけのことはある…と、咄嗟(とっさ)に左馬介には思え た。気配を察知したばかりか、既に左馬介が訪うことも先見して織り込み済みなのだ。左馬介は幻妙斎の操り木偶(でく)となり、云われるまま、表戸へ迂回していた。表戸に手をかけると、幻妙斎が云った通り、すんなりと戸は開いた。左馬介は(かまち)へ腰を下ろして草鞋を脱ぐと、上がって幻妙斎が籠る部屋へと進んだ。渡り廊下は短めであったが、それでも七、八間ばかりは曲がりつつ進んで丁度、庭側へと出た。板戸が閉ざされていたから、庭先からは見えなかったが、障子戸の紙には行灯の灯りが薄ぼんやりと橙色に照らされて映えているのが分かる。左馬介は(おもむろ)に障子戸へ向かって口を開いた。

「左馬介、罷り越しましてございます!

「…気遣いは無用じゃ。中へと入るがよい」

 やはり幻妙斎の声は心なしか弱含みに感じられた。それだけが気掛かりな左馬介だったが、云われるままに障子戸をゆっくりと開けた。驚いたことに、左馬介の眼に見えたのは、幻妙斎が布団に横たわる姿であった。

「先生! 如何、なされました!」

 左馬介は思わずと取り乱し、叫んでいた。

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