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《惜別》第一回

 左馬介が道場へ取って返すとやはり千鳥屋の喜平が云った通り、 幻妙斎は(いおり)にいた。だがその気配は、左馬介故に察知できたのであり、他の者ならば恐らく誰しも気づかなかったに違いない。それほど左馬介の心眼は鋭く研ぎ澄まされ、他の追随を許さぬ迄に向上していたのであった。

 庵は板戸が閉ざされ、足継ぎ石にも履物らしきものは見当たらなかった。だから、普通の者なら看過する風情の庵だった。それを左馬介は木戸を開け、庭へ入った瞬間に見抜いたのである。左馬介の眼にはその前の渡り廊下、障子戸をも越えて、静かに畳みに座す幻妙斎の姿が見えていた。左馬介は、ゆったりと慌てることなく足継ぎ石へ近づいた。庭木の梢が冷風に揺れ、微かな枝音を奏でる以外、静寂が支配する庵の周辺である。左馬介は、恐らく幻妙斎から声が掛かるに違いない…と踏んでいた。なにも気配を察知したのは左馬介一人ではない。師の幻妙斎が、左馬介の近づく気配を聞き逃す訳がないのである。そう思えばこそ、左馬介は足継ぎ石の手前でピタリと停まったのである。その時、やはり幻妙斎の声がした。だがその声は、気の所為か幾分、か細く左馬介の耳へ届いた。

「…左馬介であろう。表へ回り、上がるがよい。表戸は開けてある」

「はい!」

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