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《残月剣④》第三十三回

「あのう…いつぞやの、お侍さまで?」

 左馬介は黙ったまま頷いた。

「このような朝早うから、何ぞ用でも?」

 聞いているだけならば、手代や番頭と遜色ない丁稚の物云いだと左馬介には思えた。冬場だということで、流石に地面に、べったりと腰を下ろすというのははばかられた。丁稚に中で待たせて貰いたい旨を左馬介が云うと、「気づかぬことで申し訳ございません」と、やはり大人びた物云いで返された。

 幻妙斎は逗留してはいたが、この日は道場のいおりへ戻って籠られたとあるじの喜平が云う。ということは、左馬介が訪う必要はなかったということになる。要は、入れ違いになったのだ。左馬介にしては迂闊だった。しかし、そのことは、自らを責めねばならぬ程の失態ではないし、散漫な心による油断でもない。ただただ、不運だったとしか云いようがないのである。

「それで、先生は戻っておいでなのですか?」

「いえ、そこ迄は私どもにも分かりません」

 喜平に、はっきりとそう断言されては、左馬介も二の矢が放てない。どうしたものか…と、左馬介は考え込んで黙ってしまった。それを見た喜平は、この時とばかりに茶盆を置いて去り、左馬介は独り、部屋に取り残された恰好で、茫然と天井板を眺めた。十町ばかりならば、取って返しても高が知れている。結果、そうは手間取らない…と左馬介は判断した。


                               残月剣④ 完

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