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《残月剣④》第二十九回

それは正に刹那と呼ぶべきもので、凡人には疾風の動きのようでもあり敏捷(びんしょう)であった。最初の木刀による一撃で、まず左の木切れを括った縄が大きく振れて遠退いた。一撃をした左馬介の体は、打ち砕いた木切れに対して即座に背を向け、右の木切れを打ち砕く。そして次の瞬間には、ふたたび体を反転させて左の木切れの反動に備え、木切れが迫れば打ち叩いた。こうして、同じ動作を繰り返す稽古が続いていった。

 幾らか、縄を長めにして木切れを吊るした左馬介の判断は正解であった。短ければ当然、反動も早くなり、それが果して対応出来るだけの余裕を左馬介に与えるかは疑問であった。左馬介は考えた挙句、取り敢えず長めにして様子を見よう…と結論した。その判断には、過去の体験が大きな助力となっていた。幸い、そう息の乱れもなく、木切れを打ち叩く強さを工夫して強弱をつける余裕も出てきた。しかしそうは云っても、同じ繰り返しを四半時も行えば、流石に疲れる。それは体躯がそうなのではなく、針の如く研ぎ澄まさねばならない心労なのだ。云わば、連続した緊張による疲れともいえた。未だ反転して勢いを弱めない木切れの振り子運動だが、ひとまず左馬介は後退りして一服の暖を取ることにした。未だ燃した枝木の灰には残り火の温みがあった。左馬介が息を吹きかけると、飛び散った灰の後に火種は消えず僅かに残っていた。

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