《残月剣④》第二十八回
この方法は、幻妙斎に命じられて行った山駆けの際に浮かんだ発想なのだが、その折りは上手くいったので、左馬介は、そう不安には思っていなかった。事実、今回も思案通りにやると、上首尾にいった。次に、枝から垂れ下がった先の木切れを括り付ける。この高さは、以前よりはやや低めにした。即ち、地面へ少し近づけて括り付けたのである。とは云っても、その高さは、地面より五尺は優にある。
左馬介は大刀で程よい長さの枝を選ぶと斬り払い、更に脇差を使って木刀に仕上げた。そうして、腰に差した差し領の二本は、ひとまず地面に置き、作った木刀を握りしめて立った。その位置は丁度、括り付けた木切れが垂れ下がっている二本の縄の中ほどである。未だ呼吸は乱れて定まっていない。深呼吸を一つ、大きく吸い、静かに吐く。それでも未だ集中出来ない気分のムラを左馬介は感じた。それを取りの除こうと、左馬介は、ゆったりと両の瞼を閉ざした。左馬介に呼応するかのように、吹いていた冷ややかな微風が突如として止まった。勿論、吊り下げられた縄先の木切れは、左右ともに揺れず、停止している。次の一瞬、時刻の問を突くかのように左馬介の木刀が動いた。




