《残月剣④》第二十七回
冬場だから幾らか寒いのは当然で、落ちた枯れ枝で暫し暖を取ることにして、左馬介は落ちた小枝を拾い始めた。焚き付けの火が瞬く間に炎となり、左馬介の冷えた身体を温める。ただ、暖を取っているだけの左馬介ではなかった。当然、視覚の向こうにある二本の木の枝を眺めつつ、吊るした反動の振幅などを脳裡に想い描いているのだ。無論、このことは昨日考えて結論に至らなかったことなのだが、実際に木の枝に縄を吊るして木切れを括り付け、それを叩いた時、長い縄ならば振幅が大きい分、反動も遅れる。短ければ、その逆なのだ。こうしたことは、必然的に生じる事実だから何の問題もないのだが、木切れを打ち砕く角度や間合い、振り下ろす竹刀の強さなどにより、反動は大きく変化するのである。これのみは予測することが出来なかった。
身体も温みに満たされ、漸く兵平静と変わらなくなった左馬介は、二本の樹の各々に持参した縄を結び付けることにした。まず、縄先を小石で括り付け、その先を手で回転させつつ枝を目がけて投げ上げるのである。当然、石の重みで縄は枝を通り過ぎ、地面へと落下する。その落下した先の石を外し、円状の輪に結んだ後、投げなかった方の縄先を輪に通して引っ張る。すると、円状の部分は次第に上がり、枝に結びつく…という寸法だ。




