《残月剣④》第二十六回
歩きながら左馬介が考えるのは、そうしたことではなく、既に稽古をその場でしている自分の姿で、想いは短絡して半時ほど先に飛んでいるのだ。無論、やってみなければ分からないが、以前、一本の縄で行った時のことが浮かぶ左馬介であった。幻妙斎の命で試みたその折りには、幸いにも上手くいったのだが、今日は左右、いや、反動の振れようによっては前後となるかも知れないけれども、兎に角、二本の縄を相手にせねばならないのであった。
熊笹の寄りつきには、左馬介の予想通り、案外、早く辿り着くことが出来た。そして、稽古場と決めた地点に出る、その入口の切り布も、しっかりと認められた。黄色い端切れだから見落とす手抜かりもないほど、よく分かる。左馬介は熊笹の穴のように開いた入口より分け入った。進むにつれて迷いそうになる所もあったが、上手い具合にそこには切り布が括り付けられていて、進行方向を示してくれるから、迷うということもなかった。四半時弱は右に左にと進み、漸く探し当てた稽古場へ出られた。左馬介は、フッ…と溜息を一つ吐いて、背負ってきた縄を包んだ風呂敷を下ろした。縄とはいえ、或る程度の長さがある二本分だから、重みも、それなりにあった。左馬介は縄を下ろし、取り敢えずは、ほっとした。




