《残月剣④》第十八回
その分、辺りの景観に目を配っているのだ。二本の木立ちがあり、それも適度な距離を保って自生している。更に、その二本の木立ちには、同程度の高さの枝が程よく伸びている…といった厳しい条件を満たさねばならない。加えて、二本の木立ちの間は平坦な地形になっており、勾配があれば稽古場として駄目なのである。こうした三条件を満たす地形を探すのは、そう容易いとは思えなかった。そうと分かっているが、左馬介としては、そうした地形があると信じたかった。季節柄、山気は冷える。それが未だ日が昇り始めた頃なのだから、ましてや、なのである。幸いにも、厳冬の寒気が伴っていなかったから、山道を歩く探索は、さほどは気にならなかった。適当な地形は、流石、簡単には見つかりそうにない。三条件を満たさねば、左馬介が稽古の場とするには不適なのである。左馬介にも多少の心当たりが、なくもない。というのも、幻妙斎に云われて行った山駆けの記憶が幾箇所か、あった。まずは、その地へ迫ろうと進む左馬介なのだが、獣道への記憶は薄れつつあり、その道の微妙な曲り折れには難儀した。それ以降の状況については、左馬介自身にも如何に探索したのか、定かな記憶がない。ただ、気づいた折りには、左馬介が想い描いていた地形の場に立っていた…という、ただ、それだけのことである。




