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《入門》第二十八回

 左馬介も敢えてそれ以上は訊こうとはせず、食べ急いだ。ここでのことは、疑問と捉えれば、全てが疑問となってしまう危険性を(はら)むから、ここは軽く受け流すのが得策だろう・・・と、左馬介は早くも要領を掴み始めていた。

 一馬が、洗い物は私がしておきますから…と云ってくれたので、左馬介は樋口の様子を観てみることにした。道場へと回り、戸口から樋口の様子を窺うと、樋口は誰もいない道場で、しかも相手がいないにもかかわらず、堤刀(さげとう)の姿勢で木刀を左手に持って立礼し、五行の構えを一行ずつ構え、終わればまた立礼して次の一行を構えている。左馬介からすれば、眼に見えぬ亡霊を相手に稽古をしているとしか観て取れない。人と人との打ち込み稽古、掛り稽古はしないようだ。

 樋口は、五行の全て、即ち、中段、下段、上段、脇、八相の構えを一通り終えると、また静かに立礼し、板間の上へゆったりと座った。先程、一馬が云っていた、『あのお方は、少々、風変わりな振る舞いをされる方でしてね…』という言葉が左馬介の耳奥に甦った。自分などは全く足元にも及ばぬ木刀の(さば)きである。左馬介は、これから始まる堀川道場での修業の日々に想いを馳せ、心を新たにした。


                                   (入門) 完

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