《残月剣④》第十三回
とはいえ、長谷川の今迄の例からいけば、怒らないと左馬介は踏んでいる。やはり、問題となるか、ならないかの分岐点は、長谷川に対する相応の説明如何のようだった。思いついたことを、そのまま包み隠さず吐露するのか。或いは、全く違う事情で稽古の必要がなくなった…とでも云うのか。幾つかの手立てが刹那、左馬介の胸中を駆け巡った。
「どうします? また、やられますか?」
唐突に鴨下が左馬介へ訊ねた。不意を突かれた格好の左馬介だが、そこはそれ、技と同じで、心の隙もない。
「ええ…、そう思ったのですが、思案せねばということもあり、今日は結構です。お二方で続けられるなら、どうぞ。私はこれ迄に…」
胸中に巡る算段は未だ纏まっていないから、よく練り上げた上で二人に話した方がよい…と、瞬間、左馬介は決断したのだ。それ故、早めだが、これ迄に…と、話したのである。木切れを打ち叩く算段は考え巡っていただけで、具体的に懐紙にでも書かねば飽く迄も絵に描いた餅で、食える話とはならない。妙義山の山駆けの折りも、そうしたことがあった。滝壺に幻妙斎が隠した灯明の灯りを消さずに滝壺から持ち出す算段を、あれこれしたことなど…、幾度かの算段をした自分の姿を想い出す左馬介であった。




