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《残月剣④》第二回
「そんなことでしたか。そりゃ、よかった。実は少し、そのことが気掛かりだったのですよ」
「なんだ、そうでしたか。そりゃ、よかった」
二人は互いの顔を見合わせ、大笑いした。その時、玄関へ長谷川が現れた。
「おう! 帰ったか、左馬介。心配かけおって」
そうとだけ、ひと言、長谷川は漏らすと、また奥へと消えた。左馬介としては、幻妙斎に対する心配ごとは、ひとまず消えていたし、今の鴨下や長谷川への気遣いも無用と分かり、全く蟠りは消え去っていた。
結局、そう大ごとにもならず夕餉となった。左馬介としては、それでも一通りの説明は必要だと思えたから、千鳥屋での経緯を夕餉が済んだ後に世間話でしようと思っていた。ところが、夕餉の最中に長谷川の方から話題にしてきた。それは左馬介の意表を突いた。
「で、どこへ出掛けておったのだ、左馬介」
唐突に長谷川の口が開いた。
「えっ? ああ、はあ…。千鳥屋です」
「千鳥屋とな? 詳細は、どうでもよいが、何か、用向きでも出来たのか?」




