《残月剣③》第二十一回
長谷川の場合は、殺気とは呼べない迄も、隙あらば一本取ろうという凄まじい気迫の籠った足先の動きが感じられるのだ。鴨下には、それがない。所謂、素振りを見せるに止まっている訳である。
十五度目が終った時、流石の左馬介も身体の疲れを感じてきた。それに、面防具の下の汗も尋常ではなくなっている。一度、拭わねばと、思えた。
「少し、休憩を挟みましょう…」
左馬介は十六度目を終えた時、二人に向かってそう声を掛け、面防具を外した。左馬介の先読みでは、━ 恐らく鴨下は、次の申し合いで打ち込んでくるに違いない… ━ というものである。無論、その頃合いが幾度目になるのかは分からないのだが、必ずそうなりそうな予感めいた兆しがあった。休憩は堂所でとった。上手い具合に、権十がやって来て、置いていった葛西宿の、みたらし団子の串が三、四本は残っていたので、それを茶うけとして寛ぐ三人である。長谷川と鴨下は何を考えるでもなかったが、左馬介は既に次の申し合いのことを、茶を啜り、串団子を頬張りながらも考えていた。当然、打ちんで来るであろう鴨下の頃合いのことである。再開直後の十七度目か、いや、二十度目なのか…。




