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《残月剣③》第十八回

長谷川は慣れたもので、考えるほどのこともないと、いつものように円周を描いて回り始めた。一方の鴨下は、要領が今一つ分からないから、長谷川の所作の見よう見真似である。左馬介と長谷川の稽古を遠目で眺めはしていた鴨下なのだが、観るのと実際に行うのとでは雲泥の差があった。しかし、それでは、いないのと同じなので、稽古相手となる左馬介には効果がない。ついに左馬介は断して立ち、稽古を一端、止めた。

「鴨下さん、気軽に打ち込んで戴いて構いませんから…。長谷川さんは長谷川さん、貴方は貴方の好機を見計らって打ち込んで下さい」

　そう云うと、左馬介は、ふたたび静かに床へと座った。

　左馬介が所望した稽古だから、長谷川や鴨下が、そう必死に稽古をすべき必要はない。自分の腕そのもの上向く訳でもないからだ。しかし、今や堀川髄一の剣技を誇る左馬介と直接、竹刀を交えられるのだがら、参考にこそなれ、決して腕が落ちることはない…と、長谷川は考えていた。鴨下は？　と云えば、この男は何も考えていない。飽く迄も、新入りとして共に賄い番をやったという近しい気持のみで、鷹揚そのものだから、やはり長谷川が云う鴨葱なのである。