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《残月剣③》第十一回
「それはそうとして、掻い摘んで話して下さいよ、お願いします。簡単でいいですから…」
「そうか…。だったら要点だけ云っておくか。後は直接な。先生がここのところ、少しお加減がお悪いということでな…」
「えっ!!」
左馬介は驚愕の余り、絶句した。
「いや、命がどうのこうの、というご容態ではない、との話だったがな」
「今、樋口さんは、どこに?」
一瞬、長谷川は沈黙した。そして、
「影番だから、足は摑めそうで摑めんぞ」
と、左馬介に釘を刺した。
「いえ、そういう積もりはないんですが…」
「ならば、俺が云ったので充分だな」
左馬介は以前、幻妙斎のことで樋口が道場へ寄った時のことを思い出していた。その時の申し合わせでは、幻妙斎に何かの異変があれば必ず知らせる…ということだった。ということは、樋口が直接、左馬介に知らせていないのだから、幻妙斎の加減は長谷川が語るほどのことではないように思える。




