《残月剣③》第八回
鴨下の気配りで暫く寛いだ左馬介と長谷川は、その後ふたたび、稽古を開始した。勝手が分かったことで、長谷川の所作も最初に比べれば機敏である。直ぐに最初の一撃を左馬介に打ち込んだ。無論、左馬介は、さも当然の如く体を躱して一回転した。そして、スクッと立ち上がる。長谷川にしても、一応は打ち込むが、恐らく返されるであろう…と踏んでいる向きが、なくもない。云わば、惰性とは呼べぬ迄も、ほぼ淡々とした同じ繰り返しで左馬介に対峙する長谷川の稽古は続いた。
左、右、前斜め、後方斜め…と、様々な角度から長谷川が竹刀を打ち込み続け、その回数は、優に二十回を超えていた。
「長谷川さん、お疲れになったでしょう。今日は、これ迄にして下さい」
「そうか…、では」
長谷川にしてみれば、珍しく顔に、やれやれ助かったぞ…と、出ている。それを左馬介は当然、分かっている。
「疲れさせました、有難う存じます…」
労いの言葉を掛けることにも手抜かりがない左馬介である。刻限は、いつしか昼近くになっていた。いつの間にか、また鴨下がいなくなっていた。その鴨下が、ふたたび顔を現した。
「昼にして下さい。堂所に準備しましたから…」




