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《残月剣②》第三十回

常に顔を突き合わせている左馬介とは仲間として繋がれているという、云わば連帯感のような想いが二人にはあった。これはお互いに持ち合わせる感情であり、道場が多くの門弟で賑わっていた頃には到底、起こり得ない感情であった。

 夕餉の膳が片づけられ、長谷川が小部屋へ戻ろうとしていた。

「あっ! 長谷川さん、少し宜しいですか?」

「ん? …なんだ?」

 長谷川は背中に声を受け、立ち止まって振り返った。鴨下は厨房で洗い物をしている。

「実は…、またお願いなんですが…」

「ほお、いつかの妙義山のようなことか?」

「はい、そうなんです。ただ、今回はお知恵を拝借するというのではなく、実際に剣のお相手をして貰いたいのです」

「おお、それはいいがな。…で、どうしろと云うんだ?」

「どうしろなどと…。ただ元立ちしている私に打ち込んで下されば、いいのです」

「なに? それではただの打込み稽古ではないか。容易いご用だ!」

「いえ、それが少し違うんです。私は座していますから、御自由にどこからでも打ち込んで戴きたいんですよ」

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