《残月剣②》第二十七回
その因は、やはり腕鍛えによる成果であるように左馬介には思えた。しかし確実な形として身体に覚え込ませるには、未だ鍛え続けねば駄目だ…と、思える左馬介である。こうした謙虚な姿勢は以前、考えられなかった左馬介の発想で、心、技、体ともに進歩している証拠といえた。
今秋の最後では最後の名月となるであろう月が地平線から昇ろうとしていた。勿論、その光は川の前面に広がる竹林から漏れて左馬介の両眼へ届いている。日没が早まったことで、もうとっぷりと辺りは漆黒の闇が覆っていた。左馬介が道場裏手の川縁へ現れる刻限が取り分け遅くなった訳ではなく、いつもと同じ頃合いなのだが、それだけ日が短くなった、というだけのことなのだ。とはいえ、左馬介がそのようなことで一喜一憂する筈もない。蒼白いというよりは橙色に近いやや大きめの月が地平線の一角に昇った。左馬介は暫くの間、竹林から見えるその月の朧気な姿をただ茫然と眺めていた。竹林とはいえ、生えている竹木の本数は僅かばかりの厚みだから、川の流れに沿って続く様は圧巻だ…とは思えるものの、正面だけを見ればそう大した竹林とも見えず、容易に月の姿は眺められた。恰も、格子戸の横木を取り外したような景観なのだ。




