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《旅立ち》第五回

 耳に入る番頭の話は実に細やかで真実味があり、旅籠のうらぶれた佇まいと相俟って、客が寄りつかなくなった訳を如実に物語っているかのように左馬介には思えた。

 身なりを緩めて(くつろ)いでいると、襖越しに、

「すぐ、夕餉になされますか? 風呂も沸いておりますが…」

 と、ぼそっと吐く番頭の声がした。その少し前にも茶を淹れて運んでくれたから、度々は…と、少し遠慮したのだろうと、左馬介は、ふと考えた。

「風呂を先に…。食事は半時ほど後で結構ですから」

「左様で…」

 ぽつりと声が響き、番頭が階段を下りる軋み音がした。左馬介は、明るい外側の障子戸を何げなく約一尺ほど開けた。上手くしたもので、丁度、小雨が降りだしたところであった。早めの投宿が幸いしたか…と、軒伝いに落ち始めた雨滴を見ながら、左馬介はそう思った。とはいえ、十五になって程ない左馬介である。気丈さを保とうと努めるほど、やはり青年には届かぬ少年のやわさは時としてほころび出る。峠茶屋の亭主にしろ、この旅籠の番頭にしろ、そうした大人の機微が分かっているから、敢えて深く構えなかったのである。それが大人の処し方だということを、初心うぶなこの時の左馬介には、分かる由もなかった。

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