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《残月剣②》第十五回
「では、どういうことだ?」
「実は、形稽古を真剣でやっておりまして…」
「おお…、そういうことだったか」
「稽古場では殺気が過ぎると、我々に遠慮されたのですか?」
「いや、ご両所に気兼ね、というのではございません。…実は、私の形が未だ完璧とは云い難く、究めたいという存念です」
「それで、別の場で稽古をしておるのか?」
「まあ、そのような…」
「そうでしたか…」
鴨下がそう云って頷き、長谷川も得心したのか、それ以上は訊ねなかった。左馬介が軽く二人に礼をしながら遠退いていく。その姿を消え去る迄、二人とも動こうとはせず見遣るのだった。村雨丸を携えて裏手の川縁に出た左馬介は、しっかと左腰へ村雨丸を差した。そして、静かに両の瞼を閉ざすと、心を落ちつかせる為に深呼吸を大きく一回した。次の瞬間、両眼をキッ! と見開いた左馬介は、右の手を村雨丸の柄に近づけ、しっかりと握りしめた。左手は腰の鞘を安定させる為に、強く鞘を握っている。続けて、右の手を動かせた左馬介は、鞘から刀身をゆっくりと引き抜き、鞘を握っていた左手を右の手に添わせて柄を両手で握った。




