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《残月剣②》第十二回
確かに、ここ最近の物価の高騰は眼を見張るものがあった>鴨下には任せておけないと思えたのか、応対する鴨下の横へ長谷川が出張ってきた。
「ほおー、一貫文ですかい…。思ったより高うございますなあ、又さんよ」
下手から舐め回すような鋭い視線で、長谷川が又五郎に釘を刺す。
「嫌ですよ、長谷川の旦那。貧乏人を苛めなすっちゃいけませんや…」
「いや、悪い悪い、又五郎。冗談、冗談だ」
態度を急変して、長谷川が大笑いしながらそう放った。その言葉に少し安心したのか、又五郎は幾分、語気を緩めて、
「でしょうな。いや、正直なところ、掛け値なしの催促なんでございますよ。そう大した儲けもないようなこってして…」
と、首筋を掻きながら真顔で云った。最初から払うつもりだったのか、長谷川は胸元へ手を忍ばせる巾着を取り出した。そして、その中から一分金を一枚、また取り出すと又五郎の眼前へ差し出した。
「へえ、そりゃもう…。有難う存じます…」




