《残月剣②》第七回
残月剣に係る事情は薄々、二人とも知っているから、何も云わなかった。
昼餉の握り飯を食べ終えて、残った沢庵で茶を啜る。その、なんと美味いことよ…と、左馬介だけではなく長谷川や鴨下も、そう思うのである。多人数の賄いの時分は週一ぐらいで、残りの日は白湯で我慢していたから、この三人になった今は非常に有難く思えた。客人は塚田、長沼、それに山上の三人と影番の樋口を含み四人だから、月に四朱、即ち一分の銭が師範代の長谷川の懐に入る。だから、茶代には事欠かず、時に触れ、鰻政の特上も頂戴出来るという寸法だった。しかしその反面、あの美味かった茶粥が食えなくなってしまったのだ。よいことがあれば、その反面、悪いことも当然、起こるのである。特に鴨下には、その辺りが徹えた。鰻重があるから文句はなかろうと左馬介は思うのだが、鴨下に云わせれば、どちらも食いたいということらしい。左馬介はそれを直接、聞くにつけ、鴨下の食い意地の凄さに改めて驚かされる思いがした。時折り、長谷川はそうした鴨下の卑しさを窘めるのだが、いっこうに治りそうになかった。これだけは生まれ持ったものだから仕方がない…と、今では、すっかり諦めている長谷川であった。




