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《残月剣①》第三十二回
「良くも悪くもないと?」
「まあ、そうだ。これだけは、先生ご自身の他は分からぬわ。ははは…」
そう云うと、樋口は賑やかに笑いながら、その場を去っていった。
樋口に云われた通り、左馬介は客人棟は見廻らず、門人棟へと戻った。
「どうでした? 左馬介さんの方は」
玄関先で左馬介は鴨下と、ばったり会った。
「土塀瓦が数枚、割れていた以外は、これといった被害も無いようです」
「そうですか、それはよかった…。私の方も小屋の木戸が少し割れていた程度で済んだようです。瓦の方は長谷川さんに伝えて、葛西から瓦屋を呼びましょう」
「葛西宿も被害が出ておるでしょう。修理はすぐには来て貰えないでしょうね」
「左馬介さんのおっしゃる通りです。なにせ、昨夜の暴風雨ですから…」
二人はそんな話をしながら玄関を上がり、廊下へと進んだ。木戸から漏れ入った雨水が、所々、廊下を濡らしている。




