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《残月剣①》第三十一回
「そうか…、まあ、よかったこちらは、いいぞ、他の奴らもいるでな。それに、奴らと顔を合わせても互いに具合が悪かろう…。影番でなければ、俺とも話せないのだからな」
「はい…。それは、まあそうなんですが…」
樋口は間違ったことは云っていない。だから、左馬介も正反対に返すことは、ままならなかった。
「こちらは、もう一度、見廻ることにしよう。お前は戻って、あちらを見廻れ」
「はあ、そうします…」
左馬介がそう云うと、樋口は立ち去ろうとした。左馬介は俄かに幻妙斎のその後が気になった。
「あっ! 樋口さん、云い忘れました」
樋口は背中に言葉を受け、ギクッ! と驚いて振り向いた。
「なんだ?! 驚くではないか」
「先生のその後の御様子は如何ですか?」
「ああ…そのことか。…まあ、鳴かず飛ばずというところか…」
「えっ? よく分かりません」
「だから、云っておるではないか。鳴かず飛ばず…変わり映えがせぬということよ」




