464/612
《残月剣①》第二十回
「だから、俺が観たところ、少し体調を崩されておるようだと云っておるのよ」
「本当ですか。何か気づかれるようなことがあったということですね?」
「ああ、そうだ…。最近は庵と洞窟を余り移動されなくなったからなあ…。それに霞飛びも久しく見ておらぬ。加えて、食も細うおなりじゃ…」
「なんだ…。その程度の話なら、、も朝から急いで来られずとも、いいではありませんか」
「それは、そうかも知れん。だが俺としては、一人の胸に仕舞い込んでおくのが辛かったんだ。せめて、お前だけには…と思ったのよ」
「そうだったんですか…。では、お悪く見える、という程度なんですね? 今は」
「そうだ。今日、明日中にどうのこうのという話ではない。それに、俺の早とちり、かも知れんしな…」
そう云うと、胸の閊えが取れたのか樋口は豪快に笑った。
「兎も角、その程度のお話で、ようございました。もし、何ぞの異変が起こった時には、お伝え下さいましよ」




