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《残月剣①》第八回

集中力を切らした左馬介は一度(ひとたび)、刀を(さや)へとおさめた。そして、伝い落ちた顔の汗を片袖で思わず拭った。右目に汗が入ったことで、少し痛い。それもあって気が削がれたのだろうが、よく考えれば、辺りは漆黒の闇ではなく、微かな月の光が残る宵なのである。春、秋の快適さならば、それも野趣となり、返って集中する上では都合がよかったであろう。だが今は、()せ返る夏であった。左馬介は土手を下り、流れる水に手拭いを浸して絞った。それで(ひたい)を拭い、胸元から両脇へと拭き進めると、冷やりとして心地よく、汗も引いていくようである。人心地ついて、ふと、対岸に広がる竹林を見れば、漏れる残月の光は先程よりは衰えたとはいえ、未だ失する迄には至っていなかった。その時、左馬介の心に新しい剣技の形が突如として浮かんだ。蛍は岸辺のあちらこちらと飛んでいたが、もう左馬介は気にならなくなっていた。ふたたび左馬介は大刀を引き抜くと、ゆったりとした所作で中段へと移動して動きを止めた。水の流れる、せせらぎが涼を呼んで、左馬介の両耳を潤していた。それ故か、心は妙に澄んでいた。左馬介は中段に構えたまま、静かに呼吸を整えた。そうして、上段へと少しずつ刃を上げていく。上段へと到達した時、(つか)を握る両手の内の左手を、ゆっくりと離し、親指と人差し指の間に刃の(むね)を乗せた。

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