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《残月剣①》第七回

風はなく、昼間の暑気は未だ残っていたが、それでも道場内とは違い、水の流れが涼を呼ぶ。月は既に川向うの竹林へとその姿を消し、僅かに残月の光が竹林の梢から漏れている。左馬介は何を思ったか、急に立ち上がる腰の大刀の(つか)に手をかけ、引き抜いていた。辺りは僅かな残月の光のみで、あとは漆黒の闇が広がるばかりだ。中段、上段、脇、八相と徐々に構えを変えて剣筋を探る左馬介だが、これという(ひらめ)きがある訳ではない。ただ、何かを模索して操り木偶(でく)のように刀を上下左右に動かすのみであった。その時、左馬介の肩に迷う蛍が一匹、ふわりと止まった。そしてふたたび、ふわっと舞うと、左馬介の眼前を横切った。その蛍が中段へと構え直した刀の切っ先へ、ものの見事に止まった。左馬介の刀が、ぴたりと停止した瞬間である。動かすことなく構え続けはするものの、剣に集中出来る訳がない。それを知ってか知らずか、蛍は呑気に薄明るい蛍光を等間隔に(またた)いて発し、いっこう飛び去る気配がない。左馬介は次第に()れてきた。吹き出た汗が(ひたい)から目頭(めがしら)へと伝い流れるのは、決して暑気だけの所為(せい)ではなかった。少しずつ手先が細かく震えだしたのは、構えたまま不動の姿勢を暫くの間、続けた頃であった。やがて一瞬、切っ先が下へと、ぶれた時、蛍は、ふわりと軽く舞い上がった。

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