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《霞飛び②》第二十九回
「ほう…。すると、あの折りとは違う気持でのう…。まあ孰れにしろ、そういう内面の問題は、我々でも如何とも出来んからなあ…」
「やはり、先生は左馬介さんを頼りになされておられるのですよ」
「そうだぞ、左馬介。いつぞやも云ったと思うが、先生はお前に道場の行く末を託されたに違いない」
「そんな…、お二人とも。気分が返って重くなってきました…」
云うほど重い気分ではないのだが、左馬介は冗談めかして二人にそう云った。
「いや、悪い。そんなつもりは、なかったのだ」
長谷川は素直に謝った。
「はは…冗談ですよ、冗談。そんな気になどなっておりませんから…。それから、先生のお気持は真剣に受け止めています」
「そうか? ならば、よいのだが…。今度ばかりは俺も鴨下も手助け出来んが、堀川の為に励んでくれい」
長谷川は優しい眼差しで左馬介にそう告げた。鴨下も同調して無言で笑みを浮かべ頷いた。
次の朝、珍しく客人身分で影番を仰せつかっている樋口静山が三人の前へ現れた。




