《霞飛び②》第二十二回
左馬介は、ただ茫然として獅子童子を見送った。
「また、会おうぞ…」
ふたたび障子奥より掠れ声がした。左馬介が過去に何度も味わった場面である。その後、どうなるのか…、それは左馬介が一番よく知っていた。恐らく今度も、障子戸を開ければ幻妙斎の姿は忽然と消えているのであろう。だが今は、この眼で幻妙斎の姿を見ていた訳ではない。そうなのだ。左馬介は障子越しに幻妙斎の声を聞いていただけなのであった。よ~く考えれば、姿を見ないまま声だけを聞いていたことは、過去でも一度、あるかなしの筈である。左馬介は確認する気持もあり、障子戸をほんの僅かだが開けた。四畳半の畳の上にには気机があり、その前に一枚の座布団が敷かれているのが見える。勿論、三方は壁と書棚、小物入れ、箪笥、床の間で囲まれた間取りで、出入りをするとすれば今、左馬介が開けた障子戸以外にはない筈なのだ。それが、跡形もなく幻妙斎の姿は消えていたのである。僅かに、座
布団だけが凹んで、つい今し方まで幻妙斎が座していた名残りを留めていた。左馬介が幻妙斎と出会い、そして別れ際に起こる筋書きは、いつもこうなのだ。だから今更、左馬介が驚きを露にする、ということはない。




