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《霞飛び②》第十二回
だから、立て続けの鰻となったのだろう。当然、懐具合が充分だから出来たのであって、多人数の賄いがあった昔ならば、そのようなことは絵空事であった。
「有難うございます。では、遠慮のう…。後から参りますので…」
そう云うと、左馬介は長谷川と別れて自分の小部屋へと向かった。入れ違いに玄関へ鴨下が現れた。
「左馬介さんの声がしたようですが…」
「そうよ、今し方な…。しかし、大降りになる前に戻ってよかったぞ。あれを見い…」
長谷川が指さす外は、土砂降りの雨簾であった。鴨下は、長谷川が指し示す方向をじっと見た。
「ほんとだ…。こんな凄い雨は、久しく見たことがありません。どこぞ、雨漏りせねば、ようございますが…」
「ははは…。相変わらず、お前は歳の割りに脆弱だなあ。そのような小賢しいことを考えず、捨ておけい。だから、剣も上達せんのだ…」
鴨下は、つまらないことで長谷川に叱責され、手抜かった…と思えたのか、顔を顰めた。雨は益々、その雨勢を強めていた。




