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《霞飛び②》第十一回
夏の夕立ちは、時折り、こうした豪雨となる。今日が正にそれだった。
左馬介が玄関で人心地をついた。濡れた着物を手拭いで拭きながら外の雨模様を眺めていると、そこへ長谷川がドカドカと廊下を歩いて現れた。
「おお…、よう降ってきおったわ。左馬介、少し濡れたか?」
「えっ? いえ、そう大したことは…」
「そうか…」
それ以上は訊かず、長谷川は話を転じた。
「つい今し方、鰻政の鰻が届いたところだ」
「また、ですか?」
「なんだ? 何か不足か?」
「いや、そういう訳じゃないんですが…。この前もお相伴に与ったところですから…」
「ははは…。食える時に食っておくのよ。俺もお前も、勿論、鴨下もそうだが、堀川を出れば、もう食えるかどうか分からんぞ」
豪胆と云うか、恐れを知らぬと云うのか、長谷川には心の直なところがあった。猪でもあるまいが、こう…と思えば、その考えを曲げることなく実行せねば治まらない性向があった。




