《霞飛び②》第七回
獅子童子の姿も既になく、微かなその鳴き声だけが洞窟に谺した。
次の日から左馬介の新たな挑戦の日が始まった。目指すはただ一点、幻妙斎が云った堀江一刀流の新技を編み出す…このことに尽きるのだ。意気込みとは裏腹に、左馬介は何をどうすればよいのかが皆目、見当もつかなかった。よく考えれば、新たな剣筋への取り組みは、早朝の隠れ稽古を薪小屋でやっていた頃より左馬介は実践していたのである。だが、完成することなく今日に至った訳だ。勿論、幻妙斎が云った通り、師に云われて模索した、ということも一つにはある。しかし、今の左馬介は、あの時とは少し違うのである。基本の一部とはいえ、霞飛びの奥儀を熟すまでになっているのだ。
次の朝は十五日で、月に二度の道場閉門日であった。そんなこともあってか、いつもよりは蟹谷や鴨下の起き出しはおそかった。賑やかだった頃、大男の神代が魚板を叩いて全員を起していた日々が嘘のようである。客人身分の門人は、いても霊の如き存在だから、既に門を去った者と大差がないのだ。その客身分の者が影番の樋口を含め、四人いることはいた。師の命を帯び、新たな剣技を模索しようとしてる左馬介には、そんなことは些細な小事だった。




