《霞飛び①》第十七回
「樋口さんは元々、葛西のお方ですからね。その辺りのところを先生も御存知の上で、今後も影番を頼むと仰せなのでしょう」
「恐らくは秋月の申す通りだろう。だがそれは、飽く迄も御用向きのことで、剣を託された訳ではない。俺の腕は、秋月には劣る」
「何をおっしゃいます」
「いや、これは正直なところだ。世辞でも何でもない」
「左馬介さんの腕は堀川随一と葛西でも評判ですよ」
鴨下が、しゃしゃり出て、話に加わった。
「鴨下さんまで、そのようなことを…」
左馬介は二人に、やんわりと攻められ苦笑した。それはそれとして、夜半、庵に灯る灯りの一件は解決したようである。更には久々に見た樋口と話を交わしながら、他の客人身分の者達のことも訊き出せそうだ。塚田、長沼、山上の同門者、加えて、道場を去った蟹谷、井上、神代達の近況などである。だが、最も左馬介が訊きたかったのは、事情があって道場を去った一馬のことであった。樋口が知っていれば好都合なのだが、今や、一馬のことを訊き出せそうな者は樋口をおいてはない。影番の役目という特別な事情があるから樋口とは話も出来たが、他の者達とは道場の決めがあるから訊くに訊けないということもある。




