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《霞飛び①》第九回

 幻妙斎は岩棚で瞑想に耽っているかのように見える。いや、それは無我の境地なのかも知れない…と、左馬介は飛び降りた直後、上がる時に見える師の姿を観望しつつ思った。確かに幻妙斎は両眼を閉ざし無我の境地に入っていた。だが、その両耳は研ぎ澄まされ、左馬介の飛び降りて着地した音を聞いていた。

「…力を入れるでないっ!」

 突如として、幻妙斎のやや大きく発した声が洞内に(つんざ)いて響いた。それは左馬介が飛び降りた直後であった。驚いた左馬介は、着地した体勢のまま、思わず振り返って師を仰ぎ見た。幻妙斎の姿は先程と同じで、少しも動いた形跡などは無く、後ろ向きの姿勢で座している。自分を観ておいでなのか? と、左馬介は思えた。幻妙斎は暫し無言を保ったが、凍りついた姿勢のまま、ふたたび口を開いた。

「力を抜くとは、自らを無とすることじゃ。そなたには未だ分からぬであろうがのう。それ致し方なきことなれど、取り敢えずは、その心持ちにて繰り返し致すがよかろう…」

 そう云い終えると幻妙斎は口を(つぐ)み、洞穴の岩肌と同化して凍りついた。いつの間に現れたのか、獅子童子がのっそりと歩んで小高い岩肌にその巨体を見せた。

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