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《教示③》第三十回

 鴨下はそれ以上、話さず、左馬介を場内へと迎え入れた。今日は握り飯を頬張る暇もなかったのだが、どういう訳か左馬介の腹の、ひもじさは皆無だった。緊張の連続が空腹感を上回ったと云える。

 道場の井戸で水を存分に飲んだ所為(せい)か、少し気分が落ち着いた左馬介である。鴨下は左馬介が水を飲んでいる間に道場の中へと引っ込んでしまった。鴨下のことだから、恐らくは戻ったことを長谷川に注進しているのだろうと左馬介は思った。それでも、このまま自分を一人にしておかぬであろう…とも思えた。それは、左馬介が今日の成否について何も話していないからだった。知りたがる鴨下が、このままにはしておかないだろう…と、考えたのだ。事実、鴨下は左馬介が井戸から玄関へ回った時、ふたたび顔を見せたのである。

「左馬介さん、いつものように風呂は沸いております…」

 鴨下は左馬介の後ろ姿に、そう柔らかい声を掛けたが、(ねぎら)ってか、先程のように(くど)くは訊ねなかった。

「あっ、それはどうも…」

 いつもの、『すみません』と云う語尾を暈して、左馬介は単にひと言だけ返した。


                               教示③ 完

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