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《教示③》第二十回

 滝が運ぶ風が洞穴(ほらあな)へも流れ込んでいる。目を閉じていると、冷やりとした頬を撫でる湿った風がよく分かる。左馬介は、そのことには気も留めず、これからの行動を想い描いた。しかし、そう長くもしていられない。燭台の灯芯の火が消えぬうちに滝壺を抜け、師の幻妙斎の洞窟へとその火を持ち帰らねばならないのだ。灯明皿の油は未だ充分にあったから、そう急ぐ必要もないのだが、何故か心は急いた。左馬介は、ふたたび心を落ち着けようとした。すると、どういう訳か、心の憂さが嘘のように消え去ったのである。これぞ、天の助けか…と、左馬介には一種、思えた。瞼を開け、すっくと立つと、首で巻いた風呂敷を緩め、頭に載せた木箱を静かに下ろした。そうして、木箱の蓋を開けると中へ燭台の灯明皿をゆっくり入れる。微かに灯芯の炎が揺れる。油を零さない為には、左右に(かし)げたり、或いは上下へ激しく

振動を与えるようなことは厳に戒められる。そのようなことをすれば、瞬く間に火が消えることは必定であった。ならば、どうするか…。それには出来得る限り振動を与えず、穏やかに滝壺を抜け出るしかない。

 左馬介は、やや小さめの内箱へ入れた灯明皿の炎を確認した後、内蓋をやや、ずらせて紐で括った。

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