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《教示③》第九回
長谷川も身を乗り出してきた。
「それから、外の木箱の蓋をした私は、それも紐で結わえて持ち、ゆるりと滝壷へ入ります」
「だが、そのまま進めば、上から瀑水が激しく降ってくるぞ」
「ええ、ですから迂回をするのです」
「迂回とな?」
「はい。迂回とは、滝壺の淵に沿って外へと出る意です。多少は水飛沫を受けるでしょうが、瀑水を諸に受けることはない筈です」
「ほう! さすれば、燭台の火は消えぬか…」
「なるほど…。先生は別に水を浴びる修行を仰せではないのですから、知恵を使っていい訳ですね?」
「まあ、そういうことになりましょうか」
その言葉に長谷川、鴨下とも得心がいったのか、頷いた。しかし、得心がいくことと、実際に首尾よくいくかは別問題である。
「よし! その手筈でいくとしてだ。必ずしも、それで上手くいくとは限らんぞ、左馬介。未だ充分に時はある。我々も手伝ってやるから、これから井戸で、やってみろ」
「やってみろ、と云われましても、他に燭台とか、いろいろ入り用ですし…」




