《教示③》第八回
一方の長谷川は、腰掛け茶屋“水無月”で、軒に出された縁台に座り、通行人の姿を注視していた。これでは二人が出食わす筈もない。ところが、長谷川はそうは思っていないし、鴨下とて同様であった。それでも、半時ほど後、人はふたたび会うのだから世間は広いようで狭い。不思議なことは世にあるものである。
それから半時後、兎にも角にも二人は、ばったりと出食わし、細かな経緯を長谷川が鴨下に語り、二人して骨董屋の蓑屋へ、とって返し、手に木箱を一つずつ持って道場へ急ぐ…という一連の行動を素早く立ち回り、やっとのことで左馬介の部屋へと帰り着いた。時は既に未の刻を回った頃である。左馬介は二人が手にした木箱を見て、首尾よくいったようだ…と、胸を撫で下ろした。
「よかった! あったようですね」
「はい! 長谷川さんが上手い具合に…」
長谷川は持ち上げられるのが苦手とみえ、しきりに恐縮した。
「では早速、この木箱をどのようにされるお積もりか、お訊きします」
幾らか早口で鴨下は訊ねた。
「中の木箱へ燭台を入れた後、その蓋は少しずつずらせておきます。勿論、紐で括りつけて、ですが…」
「ほう! で?」




