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《教示②》第三十四回
長谷川は首筋を掻きながら反省した。
「そうだ! こういう手立てもありますよ」
何を思いついたのか、鴨下が唐突に声を出した。
「舟と、木箱を一つ準備して戴いて…。それに左馬介さんがおっしゃった布などもあれば、完璧でしょう」
「それをどうするというのだ、鴨葱。限られた刻限で、失敗は許されぬのだぞ」
ギロッ! と、鴨下を見て、長谷川は釘を刺した。
「いやあ、何のことはないんです。舟を漕いで滝へ突入し、積んだ木箱などを持って洞穴へ入るんです。出る時には、布で包んだ燭台を木箱に入れて舟に載せる。そして滝を漕いで抜けるんです。但し、木箱は伏せた形で底を上にして被せること。これが味噌です」
「箱を伏せた形でなあ…。まあ、そうすれば水や水飛沫は入るまいが…」
長谷川も一応は得心したのか、頷いた。
「木箱とは、考えませんでした。なるほど! それは名案です」
布などで燭台を覆うこと迄は考えた左馬介だったが、木箱の発想は浮かばなかったから、左馬介はこの案に対し、一目置いた。
教示② 完




